介護と認知症を取り巻く課題にエコシステムで挑む。朝日生命「みんプロ」が描く、介護・認知症支援の新しいかたち―【前編】保険給付だけでは届かない課題に、エコシステムで挑む

介護と認知症を取り巻く課題にエコシステムで挑む。朝日生命「みんプロ」が描く、介護・認知症支援の新しいかたち―【前編】保険給付だけでは届かない課題に、エコシステムで挑む

UPDATE:2026.8.27

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前列左から、伊勢 圭右 氏(朝日生命)、青野 一也 氏(朝日生命)。
後列左から、大槻 剛(BIPROGY)、内田 雅之(BIPROGY)。

日本の要支援・要介護認定者数は2023年時点で約700万人にのぼり、2030年には約950万人に達すると見込まれている。介護や認知症は、もはやすべての人にとって「いつか向き合う可能性のある身近な課題」といえる。

朝日生命が立ち上げた「みんなのあんしん100年プロジェクト」(以下「みんプロ」)」は、そうした課題に対し、保険の枠を超えて向き合う取り組みだ。BIPROGYとともに構想を深め、複数の企業やサービスとつながりながら、必要な支援を必要な人に届ける仕組みづくりを進めている。

なぜ、朝日生命は介護・認知症領域で新たな挑戦に踏み出したのか。そして、なぜ一社単独ではなく、エコシステムという形を選んだのか。前編では、みんプロの背景にある課題意識と、共創によって実現しようとしている支援のかたちを聞いた。

伊勢 圭右 氏

朝日生命保険相互会社・デジタル戦略企画部 DX戦略室長 兼 ASAHI DIGITAL INNOVATIONLAB 所長

青野 一也 氏

朝日生命保険相互会社・デジタル戦略企画部 DX戦略室 兼 ASAHI DIGITAL INNOVATION LAB

内田 雅之

BIPROGY株式会社・事業開発本部 事業推進四部 共創プロジェクト長

大槻 剛

BIPROGY株式会社・事業開発本部 事業推進四部 共創プロジェクト

保険だけでは届かない、“お金以外”の困りごと

――まず、「みんプロ」は、どのような課題意識から始まったのでしょうか。

朝日生命保険相互会社
デジタル戦略企画部 DX戦略室長 兼 ASAHI DIGITAL INNOVATIONLAB 所長 伊勢 圭右 氏

伊勢

朝日生命はもともと、シニア層向けに保険を通じて社会課題の解決に取り組んできました。なかでも介護・認知症領域は、当社が長年向き合ってきたテーマの一つです。

一方で民間介護保険の普及率を見ると、日本全体ではまだ約20%程度にとどまっています。つまり、保険商品を提供するだけでは、介護や認知症にまつわる社会課題を十分に解決できているとは言い切れない現状があります。

この背景には、保険会社は「何かが起きた後」にしか価値を提供できないという現実があります。介護を必要とする状態になったときに、経済的な負担を支えることは保険会社として重要な役割である一方、できることが限られてしまうことへのもどかしさがありました。

朝日生命保険相互会社
デジタル戦略企画部 DX戦略室 兼 ASAHI DIGITAL INNOVATIONLAB 青野 一也 氏

青野

発症前の課題としては、認知機能の変化にどう気づき、いかに予防するかが重要です。正常な状態から認知症までの移行期を「MCI(軽度認知障害)」といい、この状態で対策すれば進行を止められる可能性があります。

軽度認知障害(MCI)の診断確定で、認知症予防や健常な状態への回復に向けた取組みのために一時金をお支払いすることができるのですが、そもそもMCIにならないようにするソリューションが存在していませんでした。

認知症を発症してしまったら、ご契約内容に応じて保険金をお支払いすることになりますが、加入者やご家族の生活はお支払いの後も続いていきます。介護の体制をどう整えるのか、家族間でどう話し合うのか、日々の不安や困りごとにどう向き合うのか。そうした課題は、保険金の支払いだけで解決するものではありません。

そこで朝日生命では、認知症を発症する前、発症した後、そして介護をめぐって本人だけでなく家族が抱える課題を整理していきました。保険給付の「前」と「後」に広がる支援の必要性、経済的な備えに加えて、日常の不安や困りごとに寄り添う仕組みをつくりたい。「みんプロ」の構想は、そうした問題意識から出発しています。

――「みんプロ」は単に便利なサービスを提供するものではなく、介護や認知症に対する向き合い方そのものを変える仕組みだと感じています。そのために工夫されたことはありますか?

伊勢

介護や認知症は、多くの人にとって自分事として捉えにくいテーマです。漠然とした不安はあってもできれば考えたくないですし、家族の間でもなかなか話題にしづらいというような、心理的なハードルがあります。だからこそみんプロでは、介護や認知症を「深刻な問題」としていきなり突きつけるのではなく、日常の中で自然に気づき、家族で話すきっかけをつくることを大切にしています。

例えば、AIとの会話や脳トレのように楽しみながら取り組めるサービスを入り口にすることで、本人が自分の状態に目を向けたり、家族が変化に気づいたりする機会を生み出します。介護や認知症について話し合うことを、目をそむけたくなる重たいものではなく、オープンに対話できる家族共通の話題として少しずつ開かれていくような状態を目指しました。

複数企業が連携して課題解決に取り組む「エコシステム」というアプローチ

――プロジェクトを進めるにあたり、単独ではなく複数の企業と協業する「エコシステム」を採用されたのはなぜでしょうか。

伊勢

プロジェクトが本格始動する前に有識者を交えて意見交換を行ったところ、介護や認知症にまつわる課題は種類も深さも非常に幅広く、また一人ひとりの状況によって必要な支援も異なるということがわかりました。例えば、経済的なリスクはもちろん、予防、早期発見、家族との対話、見守り、介護が始まった後の生活支援など、さまざまな領域が複雑に重なっています。当然、家族構成や居住地によっても、具体的な支援のプランは変わってきます。こうした多種多様なニーズに応えるために、主力事業である保険以外のサービスを自社で開発し、提供していくことには限界があると感じました。

一方で、世の中にはすでに、介護や認知症に関わる優れたサービスやソリューションを提供している企業が数多く存在しています。それぞれの企業が持つ強みをつなぎ、必要な支援を組み合わせることができれば、自社だけで一からつくるよりも、より早く、より多様な課題に応えることができます。

そこで選んだのが、複数の企業と協業するエコシステムという形でした。朝日生命がすべてを抱え込むのではなく、各社のサービスや知見を組み合わせながら、利用者にとって本当に必要な支援につなげていけば、理想的なサービスができあがるのではないかと考えました。

画像引用:朝日生命ニュースリリース(https://www.asahi-life.co.jp/company/newsrelease/20260326.pdf

青野

ベースになったのは、2022~2023年に参加させていただいたBIPROGYさんの「DiCEプロジェクト(以下「DiCE」)」です。これを実際に事業化しようという段階で、改めて外部企業の皆さんのお力を借りて課題を深堀りした方がよいのではということになりました。自社の注目領域と親和性が高かったため、経営層の後押しのもと迅速にプロジェクトを立ち上げ、短期間で意思決定を経て、2026年4月に「みんなのあんしん介護認知症ナビ(以下、「みんナビ」)」をリリースしました。

――BIPROGYとしては「みんプロ」の構想にどういった印象を持ったのでしょうか。

BIPROGY株式会社
事業開発本部 事業推進四部 共創プロジェクト長 内田 雅之

内田

もともと「DiCE」で取り組んでいたテーマだったので、事業化自体には違和感はありませんでした。一緒に育ててきたテーマを具体化できることが楽しみでしたし、いよいよ実現できる時が来た、と気持ちを引き締めたことを覚えています。

大槻

新規事業の構想は、担当部署の中だけで検討が進み、そのまま経営会議に上がっていくケースもあると思います。しかし伊勢さんと青野さんは、早い段階から経営層や社内の関係部署も巻き込んで進められていました。ゴールまでの最短距離を最初から見据えていた点に、朝日生命さんの本気度を感じました。

伊勢

経営陣の本気度を伝えることで、パートナーの皆さんも本腰を入れてくださり、追い風になりましたね。

――結果的に「みんプロ」は、朝日生命様、BIPROGYを含めて11社が参画してスタートしました。エコシステムによってどのようなメリットが得られましたか?

伊勢

他社と議論することで、朝日生命だけでは見えていなかった課題に気づくことができました。例えば、介護や認知症の領域では、ご本人にお金があっても資産凍結などによって使えなくなってしまうケースがあるため、単に「お金がある」だけではなく「必要なときにお金を使える状態にある」ことが重要であると知りました。こうした視点は、専門性を持つ企業と向き合う中で見えてきたものです。

内田

他社との関係性が生まれたことで、逆に朝日生命様ならではの強みも見えてきましたよね。お客様を訪問して、リアルなコミュニケーションをとれる営業職員がいることもそのひとつです。

伊勢

確かに、家族だからこそ言い出せない話題を、全国約1.5万人の営業職員が保険をきっかけに切り出し、サービスを実際に使ってもらえます。内側にいると気づきにくい自社の強みを、他社との議論で気づかせてもらいました。

青野

ケンブリッジさんを含む他社さんと一緒に進めていく中で、仕事の進め方自体を勉強させていただくことが多くありました。打ち合わせひとつとっても、しっかりゴールを設定して、明確な意図を持って進めていましたね。

構想にとどまらず、事業化まで至った成功要因

――「みんプロ」は2026年4月よりサービス提供開始しています。構想で終わらず事業化まで進めたのはなぜだとお考えでしょうか。

BIPROGY株式会社
事業開発本部 事業推進四部 共創プロジェクト 大槻 剛

大槻

大きかったのは、朝日生命様がBIPROGYを単なるシステム開発の発注先としてではなく、「社会課題を一緒に解決するパートナー」として見てくださっていたこと。介護・認知症という大きな社会課題に対して、自社だけではなく社外の力も巻き込みながら大きなムーブメントにしていくという軸が検討の途中でぶれなかったことは、事業化成功の大きなカギになったと思います。

内田

こういった新規事業は、ともすれば複数のサービスを並べただけのリンク集に終わってしまう可能性もあります。しかし朝日生命様は、最初に掲げた「社会課題を解決する」という目的に立ち返り続け、「利用者やご家族にとって本当に必要な支援をどう届けるのか」という問いを持ち続けていました。

「みんプロ」が広げるこれからの介護と支援のかたち

――皆さんは「みんプロ」を通じて将来的にどのような状態を実現したいと考えていますか?

伊勢

朝日生命としてまず目指したいのは、多くの方に「みんナビ」のサービスを実際に使っていただき、「これがあって助かった」「課題の解決につながった」と感じていただける状態です。将来的には、朝日生命の保険契約者以外の方にも「みんプロ」の価値が広がり、介護や認知症に向き合う多くの人が、必要な情報やサービスにたどり着ける状態をつくっていきたいと思っています。

青野

現在は認知症に関するサービスが中心ですが、今後は身体的な介護に関わる領域など、まだ十分にカバーしきれていないメニューも充実させていく必要があります。お支払いした保険金をどう使うかというメニューも整えたいですね。

内田

BIPROGYとしては、「みんプロ」を介護・認知症領域のサービスに限らず、さまざまな生活課題に対して必要な支援をつなぐプラットフォームとして活用できるのではないかと考えています。当社には国や自治体との接点がありますので、官民の橋渡しをしながらサービスの領域を広げていければと思います。

大槻

私自身、この領域に長く関わってきたことで「認知症にならないように気をつけなければ」と思うようになりました。ただ一方で、具体的に何か対策をしているかというと、正直なところできていません。同じように、「必要性は感じていても日々の生活の中では後回しになってしまう」という人は多いのではないでしょうか。気づいたときには認知症が進行していて、本人だけでなくご家族にも大きな負担がかかってしまうことがある。そうならないように、「みんプロ」が新しい気づきや行動のきっかけを届けられればと思います。

「みんプロ」では、BIPROGYの分散型パーソナルデータ流通基盤「Dot to Dot」をもとに開発したことにより、複数サービスと連携し、個人一人ひとりにパーソナライズされたサービス提供を実現。本人の同意に基づいてデータを連携する仕組みで、プライバシーに配慮しながら安心してサービスを利用できます。複数の企業やサービスをつなぐことで、介護・認知症領域における新たな支援のかたちを提示しています。

▶Dot to Dotについて、詳しくはこちら

後編では、プロジェクトに参画した各社担当者が、「みんプロ」事業化までの道のりと、共創によって得られた発見や関係性について振り返る。

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