介護と認知症を取り巻く課題にエコシステムで挑む。朝日生命「みんプロ」が描く、介護・認知症支援の新しいかたち―【後編】想いを言語化し、実装へつなげる共創のリアル
UPDATE:2026.8.27

後列左から、小畑 諒一郎(ケンブリッジ)、大槻 剛(BIPROGY)、内田 雅之(BIPROGY)、岡本 浩一(ケンブリッジ)。
「みんなのあんしん100年プロジェクト」(以下「みんプロ」)」の構想を実際の事業へ落とし込むには、多様な関係者が同じ方向を向くことが欠かせなかった。介護・認知症領域に対する課題意識は共有していても、立場や専門性が異なれば、見えている課題や重視するポイントが異なるからだ。
そのため、事業化に向けては、毎週のワークショップを通じて議論を重ねた。すべての関係者が「誰に、どのような価値を届けるのか」という問いに向き合い、合意形成を図った。
後編では、多様なプレイヤーが交わることで生まれた価値や気づきに焦点を当てて取り組みを振り返ります。異なる立場や専門性がぶつかり合い、問いや価値がどのように磨かれていったのか―事業構想における共創のリアルを浮き彫りにしていく。
前編から引き続き登場
伊勢 圭右 氏
朝日生命保険相互会社・デジタル戦略企画部 DX戦略室長 兼 ASAHI DIGITAL INNOVATIONLAB 所長
青野 一也 氏
朝日生命保険相互会社・デジタル戦略企画部 DX戦略室 兼 ASAHI DIGITAL INNOVATIONLAB
内田 雅之
BIPROGY株式会社・事業開発本部 事業推進四部 共創プロジェクト長
大槻 剛
BIPROGY株式会社・事業開発本部 事業推進四部 共創プロジェクト
後編より登場
岡本 浩一
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社・ディレクター
小畑 諒一郎
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社・コンサルタント
立場も専門も異なるプレイヤーを巻き込んで問いを開いていく
――「みんプロ」では、初期段階から、朝日生命様、BIPROGY、ケンブリッジに加え、外部有識者や事業者も参加し、ワークショップを通じて提供価値の具体化を進めました。異なる立場の皆さんが関わったからこそできたことや、得られた気づきについてお聞かせください。

伊勢
お客様のもとへ訪問できる営業職員チャネルがあることや、介護・認知症に特化した保険商品を持っているという、朝日生命の強み自体は以前から認識していたものの、その強みが今回のようなデジタルサービスを軸にしたプロジェクトの中でどのように活かされるのかについては、議論を重ねる中で改めて見えてきたものでした。

青野
社内では「あれ」「それ」で通じていたことも、社外の方と議論する場では背景や前提からきちんと言葉にしなければなりません。「なぜそれが必要なのか」「誰にとって価値があるのか」「どのような課題につながっているのか」をひとつひとつ言語化していく中で、自分自身の理解も深まっていったように感じています。

大槻
朝日生命様は、保険に関する知見はもちろん、お客様と向き合ってきたプロフェッショナルであり、その中には営業の現場を知る方、営業を企画・推進する方、経営の視点を持つ方、業務オペレーションに詳しい方がいます。一方で、BIPROGYにはシステムやデータ連携、事業企画、エコシステムの知見があります。
それぞれがプロフェッショナルであるがゆえに、自分たちの領域の中だけで語ってしまうと、アイデアがつぎはぎになってしまう可能性もあります。大切なのは、それぞれの専門性をただ並べるのではなく、全体としてどのような価値に落とし込むのかを整理することです。
今回のプロジェクトでは、朝日生命様が中心となりながら、多様なプロフェッショナルの意見を受け止め、整理し、全体の方向性へと落とし込んでいきました。しっかりと旗を振っていただき、異なる立場の知見をつなげられたからこそ、「みんプロ」の価値がより明確になったのだと思います。

コンサルタント 小畑 諒一郎

小畑
ワークショップでは、模造紙に皆さんの意見を書き出しながら議論を進め、どのような価値提供ができるのかを整理していきました。それぞれの視点から出てくる言葉を、紙の上に貼り出して可視化していくことで、互いの意見を補い合っていく感覚がありましたね。書き出す量はかなり多かったですが、筆を止める隙が無かったということは、それだけ皆さんの意見を引き出せたということだと思います。


青野
あのディスカッションは、率直に言って衝撃でしたね。参加者それぞれが考えていることや、論点の違いが目に見える形になっていく様子が印象に残っています。

ディレクター 岡本 浩一

岡本
あの場で行っていたのは、単にアイデアを並べることではありません。専門性を持つ各社が考えていることを見える化し、誰が何を重視しているのかを俯瞰できる状態にすることでした。
今の時代に、あえて紙に書き出して議論するというのは、かなりアナログなやり方に見えるかもしれません。それでも、多様な企業や専門家が集まるプロジェクトでは、参加者の考えを目に見える形にして議論することが非常に重要です。言葉だけでは流れてしまう前提や違いを可視化することで、同じ方向を向くための土台がつくられていったのだと思います。

大槻
プロフェッショナルが集まるからこそ、現実的な制約を認識することもできました。「これはできるのではないか」「こういう価値提供ができるはずだ」と構想を広げ、いざその領域の専門家や事業者の方と議論してみると、「こういう理由でその形では実現できない」といった指摘、あるいは「こういう形ならできる」という提案が出てくることがありました。これは非常に大事なことで、早い段階で現実的な論点を出し合えたからこそ、短期間でも実行可能な形に着地できたのだと思います。
“何をつくるか”よりも“何を解きたいか”
――今回のワークショップでは、各社が自社の利益を優先するというよりも、「介護や認知症にまつわる苦しみをなくしたい」「社会的な価値を生み出したい」という共通の思いを持って議論されていた印象があります。どのようにして同じ目的や世界観を共有していったのでしょうか。

伊勢
通常の事業であれば、収益を上げていくことが前提となりますが、経営層から「まずは足元の社会課題解決にフォーカスしてほしい」という話がありました。その方針が早い段階で明確になったことは、プロジェクトにとって非常に重要だったと思います。収益を第一に考えるのか、まず社会課題の解決に向き合うのかによって、選ぶパートナーやサービスの見せ方、意思決定の基準も変わってくるからです。各社が自社の利益を優先するのではなく、介護や認知症にまつわる困りごとをどう減らしていくか、利用者やご家族にとって本当に必要な価値は何かという視点で議論できたことが、プロジェクトを前に進めるうえで大きかったと感じています。

――構想を進めていくうえでは、関係部署に同じ方向を向いてもらうことも重要だったと思います。社内の合意形成や部門間の連携で特に意識していたことは何でしょうか。

伊勢
実は、介護に関する付帯サービスを提供するような取り組みは、社内でも以前からありました。ただ、限られた部門で動かしていたために、リンク集のような形にとどまってしまっていたんです。その経験を踏まえ、今回は少なくとも関係する部署が納得したうえで協力してもらえるように、合意形成の進め方を丁寧に組み立てることを意識しました。「社長が言っているから進める」という形ではなく、関係者ときちんと議論を重ねながら進めることを大切にしました。
一方で、社内だけで議論していると、どうしても部署間の力関係や立場によって、議論の方向が左右されてしまう懸念もあります。ケンブリッジさんや有識者の方の意見をいただくことで、議論をより客観的に進めることができました。

岡本
ケンブリッジとして意識していたのは、とにかく「見えるようにして話す」ことです。目指す未来や大切にしたい価値が一人ひとりの頭の中にあるだけの状態で議論を進めてしまうと、同じ言葉を使っていても認識がずれたり、場合によっては意見が対立してしまったりすることがあります。書き出して可視化することは、意見の違いを「対立」ではなく「検討すべき論点」として扱うためでもありました。

小畑
さまざまな事業者や部門の方が集まると、多様な意見が出てきます。そのためワークショップの冒頭に今日のテーマを明示し、出てきた意見が今日の議論につながるものであれば深め、今扱うべきテーマから離れてしまう場合は、議論の進路を戻すようにしていました。
最終的に「1枚の絵」として整理することも、事前にゴールが見えていたからこそできたことです。ワークショップの前には毎回、落としどころや段取りについてBIPROGYと綿密にすり合わせをしていました。

次に出会いたいのは、同じ社会課題を本気で解きたい仲間
――プロジェクトの中で、BIPROGYはどのように貢献できたのでしょうか。

伊勢
ご一緒して感じたのは、こちらの立場に立って考えてくださっているということです。自社のソリューションを提案するのではなく、まず朝日生命が何を実現したいのか、「みんプロ」でどのような価値を届けたいのかを起点に考えてくれました。他社の方と一緒に仕事をしているというよりも、同じラボのメンバーとして議論している感覚に近かったです。
システム面でも、非常にスピード感を持って対応していただきました。システムに強い会社であると同時に、事業の意図を理解して実現可能な形へと素早く落とし込んでいく力があると実感しました。

青野
こちらが話した内容をすぐに言語化し、「つまりこういうことですよね」と具体的な形にして返してくれました。自分たちがやりたいと思っていることを、システム上ではどう表現するのか、どのようにサービスとして実現するのか。その変換のスピードと正確性が非常に高く、「そうそう、こういうことがやりたかった」と感じる場面が多くありましたね。単に要望を聞いて開発するのではなく、私たちの意図を汲み取り、実装できる形に整理してくれる点が、BIPROGYさんの大きな価値だったと思います。
――ありがとうございます。今後、どのような企業をパートナーに迎えたいとお考えですか?

伊勢
何よりもまず、本気で社会課題を一緒に解決していきたいと思ってくださる企業です。介護や認知症にまつわる困りごとをどう減らしていくか、本人やご家族にとって本当に必要な支援をどう届けるかという問いに向き合い、パッションを持つ企業が集まっていけば、「みんプロ」は単なるサービス連携にとどまらず、将来的には社会インフラと呼べるような大きなインパクトを生み出せるのではないかと考えています。

青野
私たち自身が本気でこの課題に向き合い続けることで、同じ思いを持つパートナーも集まってくるはずです。すでに参画しているパートナーの多くとも、その思いを共有できていると感じています。特にBIPROGYさんは、そうした姿勢を強く持ってくださっている存在です。社会課題を解決したいという思いを共有する輪を広げながら、「みんプロ」をより大きな取り組みに育てていきたいと考えています。

前編では、朝日生命が介護・認知症領域で新たな挑戦に踏み出した背景と、保険の枠を超えて複数企業と連携する「エコシステム」を選んだ理由、そこから目指す支援のかたちを紹介している。
