これからのサービス開発に求められることとは。「共創型コミュニティ」がつくる新たなルール

これからのサービス開発に求められることとは。「共創型コミュニティ」がつくる新たなルール

UPDATE:2023.8.31

生活者が真に望んでいるサービスをいかに提供するべきか。サスティナブルなかたちでサービスを開発・発展させるためにはどうすればいいのか。

そんな課題に対するひとつのキーワードが「共創型コミュニティ」です。

業界や企業の垣根を越えてつながり、生活者との関係性を紡いでいく。そんな新たな時代が今訪れようとしています。実際に静岡県で共創型コミュニティの実証実験もスタートした今、Dot to Dotをはじめとした共創型コミュニティの取り組みを推進している2名のメンバーが語りました。


目 次

企業側の論理ではなく、生活者側の論理でサービスをつく
貢献が可視化され正しく評価される、未来のコミュニティ
今が転換点。ミドル層のひとつひとつの意思決定が時代を変える
コミュニティを加速させるために、企業が、Dot to Dotが、担うべき役割

箱崎 浩大

(はこざき こうた)

大手旅行会社にて新規事業開発ならびに企業プロモーション事業に従事。一般社団法人日本能率協会にて
事業マッチング事業、経営者支援・社会人教育事業、新規事業開発支援業務、生産工程管理支援事業、各業務において新規サービス新規事業開発に従事。2019 年 BIPROGY㈱に入社。主に新規事業開発に従事。パーソナルデータ流通を活用した新規事業、企業共創事業(Digital Chain Ecosystem)を立ち上げデータ連携を通じた事業創発に従事。2022 年スポーツ庁地域版 SOIP(Sports Open Innovation Platform)2022 地域メンター

内田 雅之

(うちだ まさゆき)
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部 事業推進第二部
企業共創プロジェクト1G

2006年BIPROGYに入社。
入社以降、業界横断のシステムアーキテクトとして、金融・公共・流通分野の大規模システム開発に多数携わる。
2016年より、新規事業を軸としたデジタルマーケティングやグロースハックを担当する傍ら、オープンイノベーション活動を経験。
2019年にアーキテクトとして、分散型パ―ソナルデータ流通基盤「Dot to Dot」を開発。
現在は「Dot to Dot」を活用した生活者中心社会を実現する事業創発に従事。
『生活者とサービスが共に歩む世界を創る。』をミッションに、生活者の意思が市場に反映され企業が真の価値創造で答える世界の実現を目指して日々取り組んでいる。

企業側の論理ではなく、生活者側の論理でサービスをつく

――そもそもなぜ「共創型コミュニティ」が重要なのでしょうか?

箱崎

まず企業が置かれている環境から話しましょう。今はひとつの会社で生活者のあらゆるニーズを満たすのが無理な時代だと思うんですよね。インターネットの時代になり、生活者はいくつものサービスを通じて企業との接点を持つようになりましたが、朝から晩まで、もっと言えば生まれてから死ぬまで顧客接点を持ち続けられる企業ってないじゃないですか。もしかしたらGAFAなどの存在が近しいものかもしれないけれど、そんな莫大な資本力のある企業を目指すのってあまり現実的ではない。

内田

あと、ひとつの会社が生活者のあらゆるデータを集めきって中央集権的にビジネスを牛耳る状況もそれほど望ましい状態ではないと思っています。たとえば、ある会社が幅広くサービスを展開していてその経済圏の中でしか価値を享受できない状態って、そもそも本当に生活者のためになるんだろうか?という疑問があって。たしかに、自分たちの経済圏の中に生活者を囲い込んだ方が自社のサービス群を連動させやすいしマネタイズも上手くいくでしょう。でも、それって提供者側の論理じゃないですか。生活者には選択する権利と自由があるべきだと思うんです。

箱崎

生活者側の論理でサービスをつくるべきですよね。

内田

そうですね。これまではビジネス主導の仕組みでサービスがつくられてきたから生活者が本当に求めていることとそぐわず、結果的に無駄も多く生まれていたように感じていて。それにDXを推進するとしても、なかなか社内で足並みが揃わなくて、便利にできるはずのことが便利になっていない状態もあると思っています。

じゃあどうするかというと、生活者が1日の中でいくつものサービスを切り替えながら生活しているところに着目するべきだと思うんです。生活者にわざわざサービスを使い分けさせるのではなく、まず企業同士が予めサービスをつなげておく。企業同士が垣根を越えてお互いに手を取り合う状態をつくることが、最初の一歩だと思いますね。

箱崎

ひとつの企業だと顧客接点は限られているけれど、カスタマージャーニー上に隣接する他の企業さんと連携すれば何か新しい可能性が生まれるかもしれない。そこから得られたヒントをもとにサービス提供していければ顧客のロイヤリティは必ず上がるはずなんですよね。それこそが共創なんだと思います。

Dot to Dotが目指している企業共創の価値観

――共創することでどんな価値が生まれるのでしょうか?

内田

それぞれの企業が持っている生活者のデータを分散型で連携させることで、生活者自身が気づいていない可能性やチャンスを提供できるのではないかなと思うんです。

たとえば、ジムでのヘルスケアデータや検診での診断結果をもとに「データをもとにすると、あなたにはこんなスポーツの才能があると考えられます」と提案する。もしくは日々の食事データも組み合わせて「こんな病気のリスクがあるから、こんな栄養素が入っているこんな食事を取るとよい」といった提案も考えられるでしょう。

――共創することが大切だという価値観は、どんな経緯で生まれてきたのでしょうか?

内田

「データをつなぎ合わせよう」「データを積極的に活用していこう」という流れ自体は、ずいぶん前から生まれていたように思います。それこそWeb2.0の時代でも「ユビキタス※」という言葉が流行っていましたしね。

ただ、インターネットが進化してインターネットビジネスが発展してくると、データが巨大企業に一極集中していることに抵抗感を示す人も現れてきた。そこでパーソナルデータは個人でコントロールしたいという声が上がってきたり、Web3.0の世界観が登場したり。社会の要請としても技術にもちょうど今タイミングがかみ合ってきた結果、「共創」という価値観が広がっているんだと思います。

※1990年代〜2000年代初頭にかけて流行した、コンピューターやネットワークを、使いたいときに場所を選ばずに利用できることを表す用語。元来は、いつでもどこでも存在するという”遍在”という意味。

貢献が可視化され正しく評価される、未来のコミュニティ

――共創型コミュニティをつくるにはどんな要素が必要なのでしょうか?

箱崎

「信頼」や「貢献」といったものが可視化されることがポイントだと思っています。まずは「企業同士で共創しよう」となったときに、共感できるビジョンのもと、それぞれの企業ができることを差し出していく。それが相互の信頼やコミュニティへの貢献に繋がるはずです。でも、それはまだまだ第一段階。

その先にはDAOと呼ばれるようなコミュニティが待っているのではないかと思っています。それは、企業だろうが生活者だろうが、誰がどんな取り組みをしていて、その結果どんなことがコミュニティに還元されているのかがデータで平等に可視化される世界です。

内田

今までは「好き」とか「ありがとう」といった気持ちってデータとしては表せませんでしたよね。でも、たとえばバスに乗ってある時刻までに病院に到着することができた結果、ちゃんと治療を受けることができたとする。生活者の一連の行動を紐解くとバスの運行もちゃんと「ケガや病気が治る」といった価値に貢献していることがわかります。

その「貢献」は、データで可視化して提示されることで初めて認識できるわけで。そうすると、運転手さんに「ありがとう」という気持ちを表したくなる。そこでチップを渡せるようになったり、評価してあげる仕組みがあればいいと思うんです。そうした感謝や評価が可視化されていくと、また運転手さんも日々のモチベーションが高まるでしょう。

2023年7月からは静岡県では共創型コミュニティの実証実験を開始

箱崎

さまざまなサービスがつながり貢献が可視化されることで、いろんな仕事の価値も見直されそうだよね。

内田

そう思います。たとえば、保育産業。保育園って未来を支える子どもたちの土台をつくる仕事じゃないですか。人格形成に寄与したり、社会生活の基礎を身につけたり。それに親が仕事できる環境をつくることで間接的に社会の労働力を支えているとも言える。

長いスパンで見ると、ものすごく社会やコミュニティに貢献している業界だと思うんですね。そうした貢献がちゃんと定量的に可視化されて、コミュニティから評価されて、恩恵を受けた企業や業界から支えられる仕組みができてもいいと思うんです。

箱崎

現状は「保育産業」として固定化されて閉じた業界のように思われるけれど、数年スパンで捉えたとき、食や運動、教育、キャリア、ライフスタイルなどさまざまな領域とつながっていくはず。そうなったときに、もはや業界という枠組みは不要になっていて、コミュニティの中に溶け込んだ新たな存在になっているんじゃないかと思うんです。そこで改めて立ち位置や価値が再認識されていくんじゃないでしょうか。

内田

まさにビジネスエコシステムですよね。企業が単独で価値を発揮しようとしたり、ブランディングしていこうとするよりも、コミュニティが目指す価値観に共感して取り組んでいこうとする。

箱崎

きっとコミュニティの中で貢献してくれた相手に感謝を表すことって、デジタルが発展する前もなされていたんじゃないかと思うんです。そうしたつながりや感情をちゃんとデジタルの世界でも取りこぼさず、さらに拡張していきたい。そのつながりを活かしてもっと多くの人が幸せになったり、エンゲージメントを生み出していくのが未来のコミュニティのあり方なのではないかと思いますね。

内田

しかも、未来のコミュニティは物理的な制限を超えられる。同じビジョンや関心を持っていれば遠くの人ともつながりを感じられるようになるはずです。これまでデジタルって効率化のための手段として無機質なイメージがあったと思うんですけど、できることを広げたり、幸せの総量を増やしたりする可能性を秘めているんですよね。Web3.0では、そんな世界観がどんどん広がっていくんではないかと思います。

今が転換点。ミドル層のひとつひとつの意思決定が時代を変える

――そのような世界を実現するために、今はどんなステージにいるのでしょうか。また、課題はどこにあるのでしょうか。

箱崎

SNSなどで誰かとつながる環境をつくるところまではできていると思います。ただ、そのつながりから一気に何かが生まれたり、動き出したりするような、爆発的な力を生み出す仕掛けをつくるのはまだこれからの課題なのではないかなと思います。

きっとその背景のひとつとして私が考えているのは、過去の出来事や経験がコミュニティ内で同期されていないこと。たとえば、学生時代の同級生に何かあったと知ったら、たとえそれまで連絡を取り合ってなかったとしても仲間同士すぐに集まろう、何かしようという機運が生まれると思うんです。それは同じ学生時代を過ごしたという過去が仲間の中で共有されているから。では、共通の経験を持っていない中でどうしたらコミュニティが動くのか。そのヒントになるのが、内田も言っていたような信頼や貢献の可視化だと思うんです。その人がどんな想いのもとで、どんな取り組みをして、どんな貢献をしてきたのか……こういったことが可視化されれば、自然と関係性が紡がれていくと思います。

内田

あと現実的な面で言うと、「ひとりの生活者」としてのアクションと「企業に属する社員」としてのアクションでどう折り合いをつけるかという課題はありそうだと思っています。

箱崎

たしかにフリーランス同士だったら個人の想いですぐにつながって動き出せるけれど、企業に属していると一旦歯止めがかかることもあり得るかもしれないね。どうしても所属する企業の姿勢やルールに合わせたアクションを求められたり。

内田

でも、その制約を取り払うのはミドル層の役目なんじゃないかと思っています。自ら意思決定できる範疇を広げていって、共創によって価値を創出するような新しい仕組みや若い価値観をどんどん社内に取り込んでいく。まだ現状では、企業活動を外部に開いて共創しながら価値創出していくマインドは世間一般的には少数派。でも、それぞれの企業・それぞれの現場で、ひとつひとつ意思決定を積み重ねていき、そのようなマインドが過半数を超えることができれば一気に流れは変わると思っています。きっと今は社会が変わる転換点なんじゃないでしょうか。

イノベーション創出や社会課題解決を目指す「地域共創ラボ」では参加者が所属する組織風土の改革も含めたマインドセットの獲得にも挑む。

コミュニティを加速させるために、企業が、Dot to Dotが、担うべき役割

――そのような時代の転換点の中で、企業が取るべき姿勢やマインドはどのようなものがあるでしょうか?

箱崎

私もそうなんですけど、多くの企業がマーケティングに取り組むとき「こういうセグメントに、こういうアプローチしていけばいいんじゃないか」といったようにすぐに企業目線で考えてしまうところがあると思うんですよ。でもそれって結局、想定や仮定の話。生活者にとってみたら「なんか違うんだよな」といった感覚が生まれてしまう。だからこそ、こちら側からプッシュするのではなく、生活者に泳いでもらうのが大切だと思っています。

企業同士がつながり生活者との接点をつなぎ合わせて、実際に生活者がどんな選択をして、どんな日常を送っているかデータをもとに理解する。そこで本人の意思や行動にもとづいたサービスを設計して「こんな感じのサービスをつくってみたんですが、どうですか?」と生活者の世界にお邪魔させてもらうようなスタンスがいいんじゃないかと考えています。その方が、不確かな想定や仮定による無駄打ちもしなくていいし、事業としてもサスティナブルだと思うんです。

Dot to Dotでは生活者本人の同意にもとづいてパーソナルデータを企業間で流通させる仕組みを採用

内田

あとは、今後貢献が可視化されていくコミュニティが重要になっていくという観点からすると、企業は貢献してもらったことにちゃんと応えていくことが大切だと思います。

たとえば、生活者がコミュニティの中でできる貢献の仕方って、お金を払うことと周知することの2つ。でも、個人が払える金額って限界があるじゃないですか。貢献という観点で言えば、もっと小さなことでもいいと思うんです。たとえば、ある生活者が「あの企業の、あのメニューが美味しかった」「あの製品のここがいい」などを周知してくれたとする。その声が巡りまわって、誰かの購買に繋がったとしたら、その貢献にちゃんと企業は価値をお返しするべきなんですよね。そうすれば、生活者も「もっとこの企業のいいところを伝えたい」と思ってくれるかもしれない。

それが企業がコミュニティに歩み寄るということ。

箱崎

今は企業が生活者から評価を頂いたとしてもその声を分析に使ったり、逆に自分たちの周知に使うことがほとんど。「こういったことをしていただいたので、こういったお返しをします」といったアクションができたらいいと思うんですよね。

たとえばクラウドファンディングはお金による貢献に対してお返しを提案する仕組みですけど、それ以外にも新たな貢献やお返しの仕方、コミュニティのつくり方があるような気がしています。

――Dot to Dotも共創型コミュニティを生む基盤としての役割を担えるのではないかと思います。最後に、今後実現したい世界観について教えてください。

内田

これからは業界や企業の垣根を越えてつながることで、どの企業の、どんな取り組みが生活者やコミュニティの価値につながったのかが可視化される。生活者が商品を購入したり、周知してくれたりしたのは、単に売り場のインパクトが強かったり製品が良かっただけでなく、そこに辿り着くまでに目にしたり手に触れた意外な企業のサービスがあったからかもしれない。

冒頭に保育業界の話もあげましたが、今まで注目されてこなかった産業や企業の貢献が社会で正しく評価されて、利益が分配されて、社会構造としてあるべき姿になればいいと思っています。

箱崎

企業や生活者が力を合わせていく世界観の中で「自分だったらこんなことができる」といった声が生まれる流れができたらいい。まずは企業がコミュニティ空間の中でどう生活者とつながっていくのか。新たなルールへの転換を促す役割もDot to Dotは担っているのではないかと思います。

BIPROGYが展開しているデータ連携による生活者の課題解決を目指すプログラム「DiCE」

内田

Dot to Dotで社会課題をテーマにした共創プロジェクトを立ち上げているのもコミュニティによる動きをつくりだしたいから。社会課題って、つまりは”みんなの課題”。1社だけでは解決できないからこそ、コミュニティ全体で取り組む必要があります。だからこそビジネスエコシステムを形成して、貢献に応じて収益を分配できるサスティナブルな仕組みを構築しようとしているところです。

箱崎

まず企業共創の仕組みをしっかりつくること。その次に生活者にも参加してもらえるようなかたちに発展できればいいと思っています。社会課題解決のためには企業共創だけでは不十分。生活者の行動変容が起きてこそ、最終的なゴールに辿り着くはず。その目標に向かって、しっかりした道筋をつくっていきたいと思います。

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